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千葉地方裁判所 昭和56年(行ウ)8号 判決 1984年7月25日

原告 株式会社十字堂

右代表者代表取締役 斉木武雄

右訴訟代理人弁護士 大村金次郎

被告 市川税務署長三輪長正

右指定代理人 平賀俊明

<ほか六名>

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五五年四月三〇日付で原告の昭和五三年八月二一日から昭和五四年八月二〇日までの事業年度の法人税についてした更正処分のうち、所得金額一八五八万五六一八円を超える部分及び右部分にかかる過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五四年一〇月一九日、昭和五三年八月二一日から昭和五四年八月二〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、所得金額を八七七万〇七九七円、納付すべき税額を二六三万六六〇〇円として確定申告したところ、被告は昭和五五年四月三〇日付で右所得金額を二八三四万一三〇四円、右税額を一〇四六万五〇〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び金額を三九万一四〇〇円とする過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定」という。)をし、同年五月二日その旨原告に通知した。

2  原告は国税不服審判所長に対し、昭和五五年六月一九日、右各処分について審査請求をしたが、同所長は昭和五六年三月三〇日付でこれを棄却する旨の裁決をし、同年四月八日右裁決書謄本が原告に送達された。

3  しかし、本件更正処分のうち、所得金額一八五八万五六一八円を越える部分は原告の所得金額を過大に認定した違法なものであり、本件賦課決定も右超過部分に対する部分は違法である。

よって、原告は被告に対し、本件更正処分のうち所得金額一八五八万五六一八円を超える部分及び右部分にかかる本件賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認めるが、3の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の本件事業年度の所得金額は、原告の申告にかかる所得金額八七七万〇七九七円に次の(一)ないし(六)の各金額を加算し、(七)の金額を減算した金二八四四万九四七四円である。

(一) 雑収入金額計上漏れ 八四九万五九二七円(詳細は後記2記載のとおり)

(二) 雑収入金額計上漏れ(パルコ店分) 一三六万七九二九円(詳細は後記3記載のとおり)

(三) たな卸資産の過少評価額 七二四万七〇七三円

右は、本件事業年度末のたな卸資産につき、評価方法を誤り過少に評価していたため、右金額を所得金額に加算したものである。

(四) 仕入割戻し金額計上漏れ 一四〇万六一三〇円

右は、製薬会社及び化粧品会社からの仕入割戻し金額を収入として計上していなかったため、右金額を所得金額に加算したものである。

(五) 消耗品費中損金不算入額 四五万三〇三九円

右は、什器備品として資産に計上すべきところ、消耗品費として損金の額に算入していたため、右金額を所得金額に加算したものである。

(六) 交際費等の損金算入限度超過額 七三万一四九九円

右は、本件事業年度において支出した交際費等の額について、租税特別措置法六二条一項の規定により計算した交際費等の損金算入限度超過額を所得金額に加算したものである。

(七) 事業税損金算入額 二万二九二〇円

右は、前期事業年度の修正申告にかかる事業税に相当する額を所得金額から減算したものである。

2  雑収入金額計上漏れ(右1(一))について

(一) 原告は、医薬品及び化粧品の小売販売を目的としているが、株式会社小林コーセー(以下「コーセー」という。)、株式会社資生堂(以下「資生堂」という。)、東京マックス株式会社(以下「東京マックス」という。)、カネボウ化粧品千葉北販売株式会社(以下「カネボウ」という。)及び株式会社アルビオン(以下「アルビオン」という。また、以上の各社を総称して「化粧品メーカー等」という。)とそれぞれ別表一記載の化粧品コーナー設置契約(以下、総称して「本件コーナー設置契約」という。)を締結し、化粧品メーカー等は、右契約に基づき、原告が経営するポポ店及びシャボー店の店舗内に化粧品メーカー等の製品の宣伝、販売のために供する目的で別表二、三記載の化粧品陳列棚及び化粧品ウインドーケース等の資産(以下「本件広告宣伝用資産」という。)を設置し、原告はこれらをその目的に従い事業の用に供していた。

(二) ところで、本件コーナー設置契約は左記(1)、(2)の事実からも明らかなように負担付贈与契約であり、化粧品メーカー等は前述のとおり本件広告宣伝用資産を設置して原告にこれを贈与したのであるから、原告には後記(四)記載のとおりの受贈益があることになる。

(1) 本件コーナー設置契約の契約書には化粧品メーカー等がその負担において本件広告宣伝用資産を設置することが定められているほか、化粧品メーカー等は右契約により本件広告宣伝用資産を原告に贈与した旨言明し、また、右の設置負担金について贈与を前提とする経理処理(繰延資産)を行なうとともに、原告に対しても右贈与に伴う受贈益の税務上の処理について指導し、右設置契約書にもその旨表示している。

(2) 原告も当初、化粧品メーカー等が本件広告宣伝用資産の設置について負担した金一四九〇万二七四〇円のほぼ三分の二に相当する金九九二万五一六三円を本件事業年度における化粧品メーカー等からの右資産の無償譲受による雑収入金額として経理処理していた。

(三) なお、原告は本件コーナー設置契約が負担贈与契約であることを争い、後記五項のとおり反論する。確かに本件コーナー設置契約の契約書中には本件広告宣伝用資産を原告に贈与することを明示する文言はないが、使用貸借をする旨が明記されているわけではないし、原告が化粧品メーカー等から右契約の終了を理由として本件広告宣伝用資産の返還を求められ、その返還に代えて本件広告宣伝用資産の残存価格相当の金員を支払った事実はあるが、これは本件コーナー設置契約が原告において本件広告宣伝用資産を化粧品メーカー等の化粧品等の広告、宣伝、陳列及び販売等に五年間使用する債務を負う負担付贈与契約であるところ、右期間経過前に原告の都合により右債務を履行できなくなったことによる約定損害賠償金の支払にほかならないから、右返還要求及び金員支払の事実は贈与の性質に反するものではない。また、原告の右債務不履行により本件コーナー設置契約が解除されたとしても、原告が本件事業年度に本件広告宣伝用資産の贈与を受けて受贈益を得たことに変わりはなく、原告が支払った右金員も支払った日の属する事業年度の損金の額に算入すべきであって(現に、原告も右に従った経理処理をしているところである。)、右解除により右受贈益に対する課税根拠は失われないから、原告の反論は理由がない。

(四) ところで、法人税法二二条二項は、各事業年度の所得計算をするにあたり益金の額に算入すべきものとして、「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」と定め、同条四項は、「第二項に規定する当該事業年度の収益の額(中略)は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と定めている。そして、法人税法基本通達では、広告宣伝用資産の受贈益について、製造業者等のその資産の取得価額の三分の二に相当する金額から販売業者等がその資産の取得のために支出した金額を控除した金額とするのが相当であるとしてその取扱いを定め、このような算定方法は、業界においても慣行として定着しており公正妥当な会計処理の基準として一般に容認されているところである(法人税法基本通達四―三―一参照)。

そこで、原告が取得した経済的利益の額を検討すると、本件広告宣伝用資産について、別表二、三のとおり化粧品メーカー等が負担した右資産の購入金額にその取付費等の額を合理的に配布した金額の合計額であるメーカー負担金額の三分の二に相当する金額の合計金額八四九万五九二七円が右経済的利益の額となり、右金額は原告の本件事業年度の雑収入金額となる。

なお、取付費等の配付金額は、次の算式により算出したものである。

取付費等の額/メーカー購入金額(コーナー設置負担額-取付費等の額)×各資産のメーカー購入金額=取付費等の配布金額

3  雑収入金額計上漏れ(パルコ店分、前記1(二))について

(一) 原告は、昭和五二年七月に原告経営にかかる津田沼パルコ店に別表四記載の什器備品等を購入して設置し、原告の固定資産として事業の用に供するとともに、右什器備品について、設置の日を含む事業年度(昭和五一年八月二一日から昭和五二年八月二〇日まで)及びその翌事業年度(昭和五二年八月二一日から昭和五三年八月二〇日まで)においてそれぞれ減価償却等を行ない、その減価償却費等を右各事業年度の損金の額に算入し、本件事業年度においても右什器備品等を原告の事業の用に供していたものである。

(二) しかるに、原告は本件事業年度末において右什器備品のうち別表五記載の資産について、カネボウが設置したものとしてその減価償却等後の帳簿価額一三六万七九二九円を減算し、あわせて、カネボウから設置負担額として昭和五三年一一月六日に受領し原告の雑収入として計上していた金二四一万円のうち右帳簿価額に相当する金一三六万七九二九円を雑収入から減算した。

(三) しかしながら、前記(一)の事実に照らし、原告が別表五記載の資産の帳簿価額一三六万七九二九円を減算することはできないのであり、またカネボウから受領した金二四一万円のうち右帳簿価額相当額を雑収入から減算する理由は認められないから、原告が雑収入から減算した右帳簿価額相当額一三六万七九二九円を本件事業年度の所得金額に加算した。

4  以上のとおり、原告の本件事業年度の所得金額は金二八四四万九四七四円であるところ、本件更正処分による原告の所得金額は金二八三四万一三〇四円であり、右は原告の本件事業年度の所得金額の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。

5  前記のとおり原告は本件事業年度の法人税の確定申告を過少に行なっていたので、国税通則法六五条一項の規定に基づき、本件更正処分による納付すべき法人税額七八二万八〇〇〇円(同法一一八条三項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金三九万一四〇〇円(同法一一九条四項により一〇〇円未満の端数切捨て)を過少申告加算税として本件賦課決定をした。

四  被告の主張に対する認否

2 被告の主張1のうち、原告の本件事業年度の所得として、(一)及び(二)の雑収入の存することは否認し、その余(但し、差引所得金額の点を除く。)は認める。

2(一) 被告の主張2(一)の事実は認める。

(二) 被告の主張2(二)の冒頭の本件コーナー設置契約が負担付贈与契約であるとの主張は争い、原告が本件広告宣伝用資産の贈与を受けたことは否認する。(1)のうち、本件コーナー設置契約の契約書には化粧品メーカー等の負担で本件広告宣伝用資産を設置すること及び右資産の受贈益にかかる税務上の処理が記載され、右記載により化粧品メーカー等が原告に対して税務上の処理を指導していることは認めるが、その余は否認する。(2)は認める。

(三) 被告の主張2(三)の主張は争う。

(四) 被告の主張2(四)のうち、別表二、三の各「①メーカー購入金額」欄は認める。右各表の「②取付費配布金額」欄は、被告主張の計算方法によった場合右各欄記載の数値となることは認める。右各表の「③(①+②)メーカー負担金額」及び「④(③×2/3)雑収入金額」欄の計算結果も認める。その余の事実は否認し、主張は争う。

3 被告の主張3(一)及び(二)は認めるが、(三)の事実は否認し、主張は争う。

4 被告の主張4のうち、原告の本件事業年度の所金得額が金二八四四万九四七四円であることは否認し、その余は争う。

5 被告の主張5は争う。

五  原告の反論

1  本件コーナー設置契約は、被告主張のような贈与契約ではない。即ち、右契約は業界統一的なもので、その目的は化粧品メーカー等が専ら自己の製品等の広告、宣伝、販売のために供する目的で、原告店舗内に自己のコーナーを設置することにあり、右契約により化粧品メーカー等が設置費を負担するのも右目的達成のためにすぎず、また、それがため化粧品メーカー等が設置費を負担した広告宣伝用資産は当該メーカー等の商品のみの陳列等に供するよう使途が限定され、コーナーの設置方法、移動、模様替え及び陳列する商品の種類、販売方法について当該メーカーの意向に従わねばならないことが契約書上又は事実上強制されている。

また、本件コーナー設置契約の契約書には本件広告宣伝用資産を原告に贈与する等の文言はなく、かえって、契約終了時には本件広告宣伝用資産を化粧品メーカー等に返還する旨の約定があり、現実に契約終了により化粧品メーカー等から原告に返還請求がなされた。

以上のような契約書の文言並びに契約上及び事実上の化粧品メーカー等のコーナーに対する支配の程度からすると、本件コーナー設置契約は被告主張のような負担付贈与契約の性質を有するものではなく、本件広告宣伝用資産の所有権は一貫して化粧品メーカー等にあり、原告に受贈益は発生していない。

2  仮に被告主張のように原告が本件広告宣伝用資産の贈与を受けたとしても、本件コーナー設置契約に定められた一定の事実の発生により贈与の法律効果は遡及的に消滅し、受贈益は初めから存在しなかったことになる。

3  以上のとおり、原告は本件広告宣伝用資産の贈与を受けたものではないが、一旦は化粧品メーカー等の誤った指導により贈与を受けたものとして経理処理していたものの、その後、その誤りに気付いて正しく処理し直したのであって、原告が一旦受贈益が発生したものとして経理処理したことをもって贈与を受けたことを理由付けることはできない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1及び2の事実(本件更正処分及び本件賦課決定の存在並びに裁決の存在)は当事者間に争いがない。

二  本件更正処分の適法性について判断するに、被告の主張1の事実は、(一)及び(二)の雑収入の有無の点を除いて当事者間に争いがない。

1  そこで、被告の主張1(一)及び同2の雑収入金額計上漏れの点から検討する。

(一)(1)  原告は医薬品及び化粧品の小売販売を目的とする株式会社であるが、化粧品メーカー等と本件コーナー設置契約を締結し、化粧品メーカー等は、右契約に基づき、別表二、三記載のとおり原告の経営するポポ店及びシャポー店の各店舗内に化粧品メーカー等の製品の宣伝、販売のために供する目的で本件広告宣伝用資産を設置し、原告はこれらを事業の用に供していたことは、当事者間に争いがない。

(2) 右の本件広告宣伝用資産が化粧品メーカー等から原告に贈与されたと認めるべきかどうかを見るに、《証拠省略》を総合すると、一般に化粧品業界において、化粧品メーカー又はその系列販売会社は自社製品の優先的積極的小売販売及び小売店の経営向上等のため、小売店と取引を開始するに当たっては、これを自社の系列店舗とし、右目的達成のための基本的約定を内容とする基本契約を締結したうえ(これにより小売店は「チェインストア」、「リングストア」、「パートナーストア」、「ジョイントストア」、「チェーン店」等と称される。)、右営業政策実現の一手段として、小売店の店舗内に自社製品の陳列、販売用コーナーを設置するためのコーナー設置契約を締結し、これに基づき、小売店との間でコーナーの具体的場所、レイアウト等を協議し、指定業者に依頼して店舗内にコーナーを構成する器具備品等を設置させていること、このようなコーナー制度は昭和三〇年代後半ころから化粧品業界で行なわれていること、原告は昭和四二年ころから化粧品メーカー等と取引を開始し、以来原告経営の各店舗ごとに化粧品メーカー等とコーナー設置契約を締結して右各店舗内に化粧品メーカー等のコーナーを設けてきたが、右契約は、取引開始時のほかコーナーに設置された器具備品等の入れ替えの都度新たに締結され、本件コーナー設置契約もかかる過程で締結されたものであることが認められる。

(3) 本件コーナー設置契約の具体的内容について見るに、《証拠省略》によれば、本件コーナー設置契約の内容を記載した各コーナー設置契約書には、ほぼ共通して、化粧品メーカー等がコーナー設置のため原告に対し一定の金額を負担する旨及びその明細については同一用紙中又は別途作成の明細書に記入する旨定められており、右の明細書等には、本件広告宣伝用資産を含む器具備品の品名、数量、単価、取付運送費等の金額及び化粧品メーカー負担金額(右器具備品の合計価額に取付運送費を加算した金額)のほか、「貴店の受贈益の計算は次の通りです。」等として法人税法基本通達四―三―一に基づく法人税法上の受贈益(課税対象額)の計算方法及びこれを前提とする経理処理(仕訳)の方法が記載されていることが認められる。そして、《証拠省略》によれば、右各コーナー設置契約書は、各化粧品メーカー又はその系列販売会社ごとに定型化されたもので一般に広く利用されているものであること、化粧品メーカー等は、コーナー設置契約書記載の右のようなメーカー負担金条項を、右明細書等に記載された器具備品を原告等の相手方小売店に贈与する趣旨の約定と解釈していること(右負担金条項は右器具備品が使用貸借に供されるのであれば無用無意味である。)、化粧品メーカー等は、一般に原告ら小売店とコーナー設置契約を締結する際、右器具備品を贈与するものとして右明細書に記載された受贈益の経理上及び税務上の処理に関する表示について説明指導を行なっていること(本件コーナー設置契約書の記載により、化粧品メーカー等が原告に対し、受贈益についての税務上の処理を指導していることは当事者間に争いがない。)が認められる。

(4) 次に、《証拠省略》によれば、指定業者に対する本件広告宣伝用資産の代金、設置費用の支払について、アルビオンは自らこれを行なっているが、資生堂及びコーセーは系列販売会社を通して支払っており、また化粧品メーカーであるマックスファクターアンドカンパニーの系列販売会社である東京マックスは原告とのコーナー設置契約の当事者となっているが、右費用は、マックスファクターアンドカンパニーが東京マックスを通して支払い、さらにカネボウは化粧品メーカーの鐘紡株式会社の系列販売会社であるが、独立採算制をとり、当事者としてコーナー設置契約を結ぶとともに右費用も自己の計算で支払っているのであり、右のとおり右費用の最終的負担者であるアルビオン、資生堂、コーセー、マックスファクターアンドカンパニー、カネボウは、右費用の支出につき自社の経理上はそれぞれ販売助成費、販売費、コーナー設置費、繰延資産、長期前払費用として処理し、税務上はいずれも法人税法施行令一四条一項九号ニ、法人税法基本通達八―一―五に従い繰延資産(償却期間五年)として申告していることが認められる。

(5) また、原告においても、本件広告宣伝用資産設置当初は、受贈益が発生したものとして経理処理していたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、原告は、化粧品メーカー等と取引を開始して以来本件事業年度に至るまでの間、同種の資産について、いずれも化粧品メーカー等から貰ったものでその所有権も原告が取得したものと認識し、これに伴って受贈益が発生したものとして経理上及び税務上の処理を行なっていたことが認められる。

(6) 以上に認定したような化粧品メーカー等におけるコーナー設置の動機、目的、本件コーナー設置契約についての認識、解釈及びメーカー負担金についての経理処理、税務処理の方法並びに原告における本件広告宣伝用資産についての経理処理及び同種資産についての従前からの認識とこれに伴う経理処理、税務処理の方法に加え、本件広告宣伝用資産の設置及びその費用支払の具体的過程、方法等を総合しつつ、本件コーナー設置契約書及びこれと一体をなす明細書を仔細に吟味すると、本件広告宣伝用資産について、化粧品メーカー等における贈与の意思はもとより、原告における受贈の意思もこれを肯認するに十分であり、したがって、化粧品メーカー等は原告に対し、本件広告宣伝用資産を贈与したものと認めるのが相当である。

(7) なお、《証拠省略》によると、本件コーナー設置契約の各コーナー設置契約書には、ほぼ共通して、原告は各コーナーが当該化粧品メーカーのコーナーであることを明瞭に識別できるように表示し、これを当該化粧品メーカーの製品の陳列、販売のためにのみ使用すること、コーナーの模様替え、移動等にあたっては当該化粧品メーカーと協議し又はその同意を得ること、契約の有効期間は五年間(アルビオンとの契約は六年間)とすることが記載されているほか、コーセーの契約書には「本契約並びにリングストア契約に違反した場合」、東京マックスの契約書には「本契約に違反した場合、コーナー設置の主旨に反する行為があった場合、又は取引解約の場合」、アルビオンの契約書には「本契約に違反した場合、並びにジョイントストア契約を解除した場合、又は本契約の有効期間中に改装により本コーナーケースを取りはずした場合」、カネボウの契約書には「本契約並びにカネボウチェーン店契約書に違反した場合、又は、コーナー設置の主旨に反する行為をなしたる場合」、原告は、化粧品メーカー等がコーナー設置のため負担した金額(又は負担した金額の範囲内の一定金額)を返還する旨記載され、また、資生堂の契約書には、コーナー設置契約が終了したときは、コーナーを資生堂の販売会社に返還する旨記載されていることは、原告の指摘するとおりである。

しかしながら、前認定の事実に照らすと、右の用途制限条項は、先に認定したような化粧品メーカー等の立場からみた小売店における自社コーナー設置の目的を前提に、本件広告宣伝用資産を原告に贈与する条件として、原告に対し、右目的に沿うように本件広告宣伝用資産を使用する義務を負わせた趣旨のものであると見るべきであり、かような意味において、本件広告宣伝用資産の贈与は負担付贈与であると解される。また、《証拠省略》によれば、右の負担金等返還条項は、五年又は六年の期間内に原告が右認定の負担付贈与契約及び化粧品メーカー等と原告との間の前記取引基本契約に基づいて化粧品メーカー等に対して負担する債務を怠り、或いは右の各契約を合意解除した場合に備えて原告の化粧品メーカー等に対する右債務不履行又はこれに基づく契約解除或いは合意解除に伴う損害賠償義務又は原状回復義務(及びその範囲)を確認し約定したものにほかならず、右のような事情が発生せずに右期間が経過した後は、多くの場合、既にその経済的効用は事実上喪失することになるが、化粧品メーカー等から本件広告宣伝用資産の返還又はその返還に代わる金銭の支払を求めることはなく、原告がこれを何らの制約も受けずに自由に使用処分できることが認められる(先に見たとおり、資生堂のコーナー設置契約書には、単に契約終了時にコーナーを返還すると記載されているが、《証拠省略》によれば、その趣旨は他社と異ならず、右認定のとおりであることが認められる。)。

これを要するに、本件コーナー設置契約の内容は化粧品メーカー等が原告に対し、本件広告宣伝用資産を贈与し、他方、原告は、化粧品メーカー等に対し、契約成立の時から五年間又は六年間に限り、本件広告宣伝用資産を右契約に定められた用途制限等に従って使用する債務を負担することを約したものと認めることができるのであって、前記用途制限、有効期間の定め及び負担金等返還条項の存在が先の贈与の認定に消長をきたすものではないというべきで、これらの条項の故に本件コーナー設置契約が本件広告宣伝用資産の贈与にあたらないとする原告の主張は当をえない。

(二)  そこで、本件広告宣伝用資産の受贈にかかる原告の収益の額について検討する。

(1) 法人税法二二条二項は、資産の無償の譲受けにかかる収益の額を当該譲受けのなされた事業年度の益金の金額に算入することとしており、右収益額の算定方法については同法には特段の具体的な定めはないが、同条四項は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」との基本的指針を示しているほか、同法施行令五四条一項七号によれば、減価償却資産を無償で譲受けたような場合は「その取得の時における当該資産の取得のために通常要する価額」と「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」の合計額をもってその取得価額とすることとされており、また、企業会計原則では「贈与その他無償で取得した資産については、公正な評価額をもって取得原価とする。」(貸借対照表原則五F)とされていることからすれば、資産の贈与を受けた法人は、原則として当該資産の時価(運送費等の附随費用を含むと解される。)をもって益金の額に計上するのを原則とするものと解すべきである。

(2) そして、《証拠省略》を総合すると、本件広告宣伝用資産はいずれもその種類、用途、機能に照らし、原告が化粧品店を営む上で必要ないし有用な器具備品であり、原告の便益に資するところが大きいものと認められるが、他方、前掲各証拠及び前記各認定事実によれば、本件広告宣伝用器具備品にはそれぞれ贈与者たる化粧品メーカー等の社名等が表示されていることが認められ、かつ、本件コーナー設置契約により原告は本件広告宣伝用資産を化粧品メーカー等の製品の陳列、販売の用に供する義務を負担するのであるから、かような原告側にとっての負担を考慮するときは、本件広告宣伝用資産の時価の全額をもって原告に生じた益金の額とすることに問題がないではない。

ところで、一般に本件広告宣伝用資産のような器具備品の贈与にあっては、コーナー設置契約書等の記載などを通じて、化粧品メーカー等から小売店に対し、贈与者たる化粧品メーカー等の負担金額(化粧品メーカー等の購入金額と取付運送費等を合算した金額)の三分の二に相当する価額を小売店の収受した受贈益として経理上及び会計上の処理をするよう指導がなされていることは前記認定のとおりであり、《証拠省略》をも総合すると、右のような経理処理をなすことは化粧品業界において承認確立された会計慣行であることが認められ、前記認定のような本件コーナー設置契約及び本件広告宣伝用資産の性質、内容に照らし、本件において右のような計算方法を採用することも妥当なものと認めるのを妨げないところであるから、本件広告宣伝用資産の贈与につき化粧品メーカー等の負担した金額の少なくとも三分の二に相当する金額を右贈与にかかる原告の収益の額とすることは、法人税法二二条二項、四項に合致するものとして許容されると解するのが相当である。

なお、前記説示のように原告の債務不履行による解除や合意解除等により本件広告宣伝用資産の贈与契約が後に法律上遡及的に失効した場合も、これによって、受贈益が発生実現した事実が覆されるわけではなく、贈与税等と異なり、企業の各事業年度の期間損益を課税所得とする法人税法の構造上、一旦発生した受贈益に対して課税されることは当然であり、原告の主張中これに反する点も失当である。

(3) そうすると、本件広告宣伝用資産の贈与について化粧品メーカー等の負担した金額の三分の二に相当する金額を受贈益として本件事業年度の原告の所得の金額に加算すべきところ、化粧品メーカー等における本件広告宣伝用資産の購入金額が別表二、三の各「①メーカー購入金額」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。そして、右各表の各「②取付費等配付金額」欄記載の各金額は、一個のコーナー設置契約により本件広告宣伝用資産を含む複数の器具備品が原告に贈与された場合、化粧品メーカー等の一括支出にかかるこれらの取付等に要した不可分的費用を個々の器具備品の購入金額(右「①メーカー購入金額」欄記載の各金額)に応じて按分して算出したことが被告の主張自体から明らかであるが、右の算出方法は合理的なものと認められ、右算出方法に従って計算した場合、本件広告宣伝用資産の各取付費等の按分配布金額が右各表の各「②取付費等配布金額」欄記載の金額となることは当事者間に争いがないから、本件広告宣伝用資産の贈与にかかる化粧品メーカー等の負担金額は右を合算した右各表の各「③(①+②)メーカー負担金額」欄記載の各金額となり(この計算結果は当事者間に争いがない。)、その三分の二に相当する右各表の「④(③×2/3)雑収入金額」欄記載の各金額(この計算結果も当事者間に争いがない。)が原告の収受した受贈益の額となる。したがって、その合計額である金八四九万五九二七円を原告の本件事業年度の所得の金額に加算すべきこととなる。

2  被告の主張1(二)及び同3の雑収入金額計上漏れ(パルコ店分)について判断する。

原告が昭和五二年七月原告経営の津田沼パルコ店に別表四記載の器具備品を購入して設置し、右設置の日を含む事業年度及び翌事業年度において右器具備品について減価償却等を行ない、本件事業年度においても原告の事業の用に供していたこと、原告は、昭和五三年一一月六日、カネボウから設置負担額として金二四一万円を受領し、雑収入として計上したこと、原告は、本件事業年度末において、右器具備品のうち別表五記載の器具備品についてカネボウが設置したものとしてその減価償却等後の帳簿価額一三六万七九二九円を減算するとともに先に雑収入として計上していた金二四一万円のうち右帳簿価額に相当する金一三六万七九二九円を雑収入から減算したことは、当事者間に争いがない。

右事実によれば、原告が本件事業年度において金二四一万円の雑収入を収受したものと認められ(《証拠省略》によっても、別表五記載の器具備品の性格、右金二四一万円との関係を明らかにすることはできず右金二四一万円中に原告に生じた益金以外のものが含まれているとは認められない。)、原告が右雑収入から金一三六万七九二九円を減算すべき合理的根拠は何ら見出せない。したがって、右金一三六万七九二九円は、本件事業年度の原告の所得金額に加算すべきものというほかない。

3  以上によれば、原告の本件事業年度の所得金額は、原告の申告にかかる所得金額八七七万〇七九七円に被告の主張1(一)ないし(六)の各金額を加算し、(七)の金額を減算した金二八四四万九四七四円となるから、右金額の範囲内で原告の所得金額を金二八三四万一三〇四円とした本件更正処分は適法である。

三  次に本件賦課決定の適法性について判断するに、本件更正処分が適法であることは前記のとおりであるところ、右処分を前提として国税通則法六五条一項等を適用してなされた本件賦課決定に違法な点は認められない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 友納治夫 裁判官 河村吉晃 裁判官佐藤明は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 友納治夫)

<以下省略>

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